熱海 徹
以前の職場でSOCを担当していた頃、人工知能を使ったツールを日常的に利用していました。ログの異常検知や攻撃の予兆を捉えるための分析エンジン、振る舞いベースの検知モデルなど、当時のAIは“防御のための道具”として非常に頼りになる存在でした。もちろん万能ではありませんでしたが、目的が明確で、扱うデータも限定されていたため、AIを使うこと自体に大きなリスクを感じることはありませんでした。
しかし、現在のAIは当時とはまったく違う存在になっています。生成AIの登場によって、AIは特定の用途に閉じたツールではなく、文章・画像・音声・コードなど、あらゆる情報を扱う“汎用的な技術”へと変わりました。自然言語で操作できるようになったことで、専門知識がなくても誰でも使えるようになり、企業でも個人でもAIを活用する場面が一気に増えています。
便利になった一方で、AIを使う側に求められる注意点は、以前とは比べものにならないほど増えています。SOCで使っていたAIは、あくまで閉じた環境で、特定の目的のために設計されたものでした。しかし、現在の生成AIは、入力した情報がどこに保存されるのか、どのように学習に使われるのか、どんな形で外部に影響を与えるのかが、利用者からは見えにくい構造になっています。
そのため、同じ「AIを使う」という行為でも、意識すべきポイントは大きく変わってきています。
現在のAI利用で気を付けるべきポイント
まず意識したいのは、AIに入力する情報の扱いです。 SOC時代に使っていたAIは、社内の閉じたネットワークで動き、扱うデータもセキュリティログやネットワーク情報など、用途が明確でした。しかし、現在の生成AIはクラウド上で動作し、入力した情報がどのように扱われるかはサービスによって異なります。機密情報や個人情報をそのまま入力してしまうと、意図せず外部に情報が渡る可能性があります。
次に、AIが生成した内容の信頼性です。 SOCで使っていたAIは、誤検知はあっても「根拠のある誤り」でした。しかし、生成AIはもっと複雑で、もっと曖昧です。自信満々に誤った情報を提示することもありますし、事実と創作が混ざった回答を返すこともあります。AIが生成した文章や分析結果をそのまま社内外に共有すると、誤情報の拡散や判断ミスにつながる可能性があります。
さらに、AIが攻撃者の手に渡ったときのリスクも無視できません。 SOC時代は、攻撃者と防御側の技術差がある程度明確でしたが、現在は攻撃者もAIを使って攻撃を自動化し、巧妙化させています。フィッシングメールの文章生成、脆弱性探索の自動化、ディープフェイクによるなりすましなど、AIが攻撃の“加速装置”になっている現実があります。
そして最後に、AIを使う人の意識です。 AIが自然言語で操作できるようになったことで、専門知識がなくても高度な処理ができるようになりました。しかし、これは裏を返せば「知らないうちに危険な操作をしてしまう可能性がある」ということでもあります。AIは便利な道具ですが、使い方を誤ればリスクを生む存在でもあります。
AIと安全に付き合うために
AIは、これからの社会に欠かせない技術です。でも、便利だからといって深く考えずに使い始めると、思わぬ落とし穴にはまることがあります。安全に使うために大事なのは、難しい専門知識よりも「AIにも弱点がある」という素直な理解です。AIは間違えることがありますし、入力した情報が外に出てしまう可能性もあります。そして、攻撃者もAIを使っているという現実があります。最終的な安全性を決めるのは、AIを使う人の意識なんです。
こうした基本的な理解があるだけで、AIとの向き合い方は大きく変わります。AIは避けるべき存在ではありませんが、過信してもいけません。便利さとリスクの両方を知ったうえで、必要なときには自分の判断でそっとブレーキを踏めるようにしておくことが大切です。AIがどれだけ進化しても、責任を持つのは人間であり、その判断ひとつで組織の安全性は大きく変わってしまいます。
私自身、これまでいろいろな現場でセキュリティに関わってきましたが、結局のところ「技術よりも、人の意識がすべてを左右する」という場面を何度も見てきました。どれだけ優れた仕組みを導入しても、使う側が状況を見極める姿勢を失えば、AIはすぐに“弱点”になってしまいます。逆に、利用者がほんの少し意識を高く持つだけで、同じAIが“強い味方”にもなります。
だからこそ、便利さに流されすぎず、かといって怖がりすぎることもなく、ちょうどいい距離感でAIと付き合っていくことが大切だと思っています。自分の経験や判断を土台にしながら、AIを“使われる側”ではなく“使いこなす側”であり続けること。それが、これからの時代を安全に歩むための、いちばん確かな備えだと感じています。