熱海 徹
私は現在、企業のサイバーセキュリティ対策を支援する立場で活動していますが、以前は最前線でSOCの運用に携わっていました。攻撃の痕跡を追い、日々変わる状況に向き合ってきた経験は、いまの私の考え方の土台になっています。そんな現場の感覚を踏まえて、「サイバー攻撃対策は何から手を付ければいいのか」「専門家にはどう頼めばいいのか」という、最初の一歩を整理してみたいと思います。
サイバー攻撃のニュースを見ると、「自分たちとは関係のない遠い話」のように感じる方も多いでしょう。しかし現場にいると、攻撃は突然降ってくるものではなく、必ず“前触れ”があります。その前触れを丁寧に拾い上げ、組織が備えられるようにする──これが、私が大切だと考えているサイバー攻撃対策の基本です。難しい専門用語が並ぶ世界に見えますが、実際はもっと身近で、現場に根ざした実務的な取り組みなのです。
サイバー攻撃対策の第一歩は、「外の世界で何が起きているのか」を知ることです。攻撃者がどんな手口を使っているのか、どんな弱点が狙われているのか、どんな準備を進めているのか──こうした“ヒント”はインターネット上に散らばっています。これらを集めて整理し、自分たちに関係しそうなものを見極めることが、最初の“守りの形”になります。そして、もし攻撃が起きても、状況を早くつかめるため、対応がスムーズになり、被害を小さく抑えることにもつながります。つまり、外の情報を知ることは、組織を守るための“先回りの知恵”なのです。
企業のセキュリティというと、「社内で起きる不審な動きを監視するもの」というイメージが強いかもしれません。しかし実際の攻撃者は、社内に入ってくるずっと前から静かに準備を進めています。たとえば、盗まれたパスワードが売られていないか、自社そっくりの偽サイトが作られていないか、脆弱性が悪用されそうか──こうした“外の変化”は、一般的なセキュリティ製品だけでは見えてきません。だからこそ、まずは「外の世界を見る」という視点を持つことが、対策の出発点になります。
その“外を見る力”として欠かせないのが、ダークウェブ調査やASM(Attack Surface Management)です。攻撃者は、実際に攻撃を仕掛ける前に、盗んだ認証情報を売りに出したり、脆弱なサーバーを探したり、偽サイトを準備したりと、外側で静かに動き始めます。だからこそ、自社の情報がどこかで扱われていないか、自社の露出資産がどう見えているのかを把握することは、対策の優先順位を決めるうえでも非常に重要です。
外の情報といっても、ニュースやSNSだけではありません。検索しても出てこないダークウェブでのやり取り、攻撃者同士のクローズドフォーラムでの会話、マルウェアの動きやネットワークの痕跡を調べる技術的な分析、さらには内部関係者や専門家から得られる人的な情報まで、実に幅広い層があります。こうした断片をつなぎ合わせることで、「自分たちは何に備えるべきか」が少しずつ見えてきます。
では、専門家にはどう頼めばいいのか。ポイントは、「何に困っているのか」を無理に専門用語で説明しようとしないことです。たとえば、「どこから手を付ければいいか分からない」「外の世界で自社がどう見えているのか知りたい」「攻撃の前触れを早く知りたい」──こうした素朴な言葉で十分です。専門家は、その言葉を手がかりに、必要な調査や対策の優先順位を一緒に組み立ててくれます。
現場では、こうした“外を見る視点”はとても実務的に使われています。毎日のように発表される脆弱性の中から「本当に危ないもの」を見極めたり、盗まれたIDが売られていないかを見張ったり、自社を装った偽サイトをいち早く見つけたり──どれも、最初の一歩として有効な取り組みです。サイバー攻撃は、社内で突然起きるわけではありません。その前に、外の世界で必ず“準備”が進んでいます。
だからこそ私は、「人は、見えていないものには備えられない」と考えています。外で何が起きているのかを、誰にでも分かる言葉で伝えること。それが、専門家として私がずっと大切にしてきた姿勢です。難しい言葉を並べるのではなく、外の変化を“自分ごととして理解できる形”にして届けること。それが、サイバー攻撃対策の最初の一歩を踏み出すための、いちばんの支えになると感じています。