年末年始に潜むサイバーの影──“特異日”への備えと対応力

12月から1月にかけては、サイバー攻撃のリスクが高まる時期である。理由は明確で、企業や個人が休暇を取ることでセキュリティ監視が手薄になること、そして商業活動が活発化し、金融取引やオンラインショッピングが増えることで、攻撃対象となるデータが増加するからである。こうした背景を踏まえ、攻撃者はクリスマスや年末のイベントを利用したフィッシング攻撃を仕掛ける傾向がある。 このような攻撃が集中しやすい日や期間は「サイバー特異日」と呼ばれ、選挙期間、大規模スポーツイベント、企業の決算発表なども狙われやすい時期とされている。情報システム部門はこの特徴を見逃さず、事前の備えを怠らないことが重要である。

サイバー特異日とは何か

「サイバー特異日」とは、サイバー攻撃が特定の時期に集中して発生しやすくなる期間のことを指す。攻撃者は社会の動きや人々の行動を観察し、警戒が緩みやすいタイミングを狙って攻撃を仕掛けてくる。 特異日が生まれる背景には、いくつかの要因がある。まず、年末年始や大型連休などの休暇期間には、企業や行政機関の業務が縮小し、セキュリティ監視やインシデント対応が手薄になる傾向がある。こうした状況は、攻撃者にとって好都合である。 また、選挙やスポーツの国際大会、企業の決算発表など、社会的な注目が集まる時期には、人々の関心が特定の話題に集中しやすくなる。その結果、セキュリティへの注意が散漫になり、フィッシングやマルウェアなどの攻撃が成功しやすくなる。 さらに、年末の買い物シーズンやイベントの時期には、ネットショッピングやオンラインサービスの利用が急増する。通信量や取引データが増えることで攻撃対象が広がり、情報漏洩や不正アクセスのリスクも高まる。 これらの条件が重なることで、攻撃者にとって「成功しやすいタイミング」が生まれ、結果として攻撃が集中する傾向が強まる。そのため、情報システム部門やセキュリティ担当者は、通常の対策に加えて「いつ攻撃が増えやすいか」という時期的なリスクを意識し、事前の準備を進めることが重要である。特異日を見逃さず、監視体制や社内のセキュリティ意識を高めておくことが、被害を未然に防ぐための有効な手段となる。

特異日に起こりやすいサイバー脅威とは

「サイバー特異日」と呼ばれる時期には、攻撃者の活動が活発になり、複数のサイバー脅威が同時に発生する可能性が高まる。こうした時期に特に注意すべき攻撃には、いくつかの傾向がある。 まず増えるのが、フィッシングメールなどの詐欺行為だ。季節のイベントやキャンペーンを装ったメールやメッセージが多く送られ、「年末セール」や「お年玉プレゼント」などの文言で利用者を誘導し、偽のウェブサイトにアクセスさせる手口が目立つようになる。 次に、偽サイトの拡散も深刻な問題だ。鉄道予約、航空券、宿泊施設、ECサイトなど、年末年始に利用が集中するサービスを模倣した偽サイトが多数出回り、利用者の油断を狙って個人情報やクレジットカード情報を盗み取るケースが増加している。 また、DDoS(分散型サービス妨害)攻撃によって、ウェブサイトやオンラインサービスが一時的に利用できなくなる事例も多く見られる。帰省や旅行、買い物などでアクセスが集中するタイミングを狙って、大量のアクセスを送りつけることでサービス停止を引き起こす。 さらに、ランサムウェアによる被害も懸念される。年末年始のように監視体制が弱まる時期には、システムを暗号化して金銭を要求する攻撃が発生しやすく、特に物流や製造業など、業務が止まることで大きな損害につながる可能性がある。 最後に、クラウド環境の設定ミスを突いた情報漏洩も見逃せない。こうした設定不備は発見が難しく、監視が行き届かない時期には、顧客情報や業務データが外部に流出するリスクが高まる。 このように、「サイバー特異日」には複数の脅威が同時に発生しやすくなるため、企業や組織はそれぞれのリスクに対して、事前に対策を講じておくことが重要である。

時期に応じたサイバー攻撃への備えの重要性

セキュリティ体制が手薄になる時期は、攻撃者にとって格好のタイミングとなる。こうした「サイバー特異日」には、通常以上の警戒と事前の対策が求められる。 まず重要なのは、監視体制の維持である。休暇期間中でもログ監視やアラート通知などを活用し、異常なアクセスや動作にすぐ気づける環境を整えておくことが、初動対応の遅れを防ぐ鍵となる。 次に、従業員へのセキュリティ教育も欠かせない。年末のセールやキャンペーンを装ったフィッシングメールや偽サイトが増えるため、事前に注意喚起を行い、怪しいリンクや添付ファイルを開かないよう周知しておくことが重要だ。 また、認証とアクセス管理の強化も有効な対策である。多要素認証(MFA)の導入や不要な権限の見直しによって、不正アクセスのリスクを減らすことができる。 さらに、バックアップの定期実施も忘れてはならない。重要なデータはオフライン環境も含めて安全に保管し、万が一ランサムウェアに感染した場合でも、迅速に復旧できるよう備えておくことが望ましい。 これらの対策は目立つものではないが、攻撃が増える時期にこそ効果を発揮する。年末年始のような繁忙期はセキュリティ対応が後回しになりがちだが、だからこそ「いつ攻撃が起こりやすいか」を意識した計画的な準備が、組織の情報資産を守るための確かな手段となる。

まとめ: 熱海徹が考えるサイバー攻撃に備える視点

サイバー攻撃は、偶然に発生するものではない。攻撃者は、社会の動きや人々の行動を綿密に観察し、警戒が緩みやすいタイミングを見計らって行動している。このような状況を踏まえると、情報システムを担当する部門には、技術的な対策のみならず、社会の流れにも目を向ける姿勢が求められる。サイバー攻撃には、季節や行事に応じた“流れ”のようなものが存在し、それを把握することで、早期の準備が可能となる。私、熱海徹としては、「技術」と「タイミング」の両面を意識することが、今後の備えにおいて欠かせない要素であると考える。いかに優れた技術を導入していても、注意すべき時期を見落とせば、思わぬ隙が生じる可能性がある。逆に、社会のリズムを感じ取り、少し先を見据えて対策を講じておけば、安心して年末年始を迎えることができるはずである。
重要なのは、日々の積み重ねと、些細な気づきを大切にする姿勢である。組織として、そして個人として、「今、何に気をつけるべきか」を意識することが、サイバー攻撃から情報資産を守るための確かな一歩となる。

 

熱海 徹(あつみ・とおる) 

アスエイト・アドバイザリー株式会社 上席情報セキュリティアドバイザー

 

長年にわたり、放送業界を中心に情報セキュリティの現場に携わってきました。CSIRTの立ち上げやSOCの運用、インシデント対応体制の構築など、現場の課題と向き合いながら、組織に根ざしたセキュリティのあり方を模索してきました。「セキュリティは技術だけでは守れない。人と仕組みがあってこそ機能する」という考えのもと、現場の声に耳を傾け、経営層と現場の橋渡し役として活動しています。現在は、企業や団体のセキュリティ体制強化を支援しながら、講演や執筆を通じて、実務に役立つ知見をわかりやすく伝えることにも力を入れています。 専門用語に頼らず、誰にでも伝わる言葉で、セキュリティの本質を届けることが自分の役割だと思っています。